例年5月のこの時期になると恒例の田植えという作業が農家のメインイベントである。
もちろん私も特に予定が無いので毎年田植え要員として駆り出されるのだが、不思議なことに年齢を重ねるごとに農業という仕事自体があまり苦ではなくなってきた。
慣れてきたからなのか、価値観が変化したからなのか。
父は自分の代で辞めると言っているが、私はどうしようか正直迷っている。
父が現役で作業できるといっても15年ほどが精いっぱいだろう。
しかし、農機具の新規購入や諸々の経費を考えるとコメを普通に購入した方が圧倒的に楽だし経済的だ。
父が農業をやる理由は、環境問題とかSDGsとかそんなだいそれたことではなく、単なる世間体だったのだ。
現にコメ作りをしていない水田は5年ほど経過すると木や草が生い茂り、既に森と同化している。山林も森林組合の手入れが行き届いていないので荒廃しており、森が荒れていると藤ツルが増え、雉が出ると言われるが本当に近年、よく雉を見掛ける。藤ツルも多い。
そんな水田も持ち主は怠け者と揶揄される恐ろしい集落根性だ。
こちらを見る雉は隠れながら足早に私たちの動向を伺っている。
年を取ると世間体が気になるのはわからなくもないが、
森や田んぼが荒れていくのも正直見過ごせない。
何ができるだろうかと考えながら、身近にある田んぼを見過ごそうとしている自分に僕は情けなくなった。このもどかしさをどう表現していいのかわからないが、
このまま田んぼを続ける意欲も今の自分にはない。
最近ではドローンを使って種を植えるなど、稲刈り機も自動化してきており農作業に掛かる体力的な負担はかなり減少してきた。その分、お金も掛かるのだが。
ただ、なぜかやる気が湧いてこない。
僕の体のどこかにスイッチがあれば押してみたいものだがそう簡単にもいかない。
キャンプや登山が人気の今、自然と触れ合う気持ちも高まってきた。
その大きなエネルギーを持った人たちが農業に心を傾けてくれることを切に願う。