ある日の夕暮れのことでございます。
私の家には裏に山があり複数の地元の人たちが開墾した畑があります。
10年ほど前まで畑仕事をしていた女性はみな年老いて、寝たきりや介護施設へ通うようになり、後を継ぐ人がいなくなっています。
そもそも家の庭に小さな畑があれば十分で、広大な畑はイノシシや熊が出没して食い荒らされるのが関の山なのです。
さて、その裏山の畑から一人の老婆が下りてきました。
荷物は持っていません。
山菜採りではなさそうだ。
足腰は丈夫そうで、健康ではあるようだ。
珍しい客が来たなと意気揚々として、父が声を掛けました。
「どうしたね?」
老婆は涙を流し、人と出会えたことが嬉しすぎて言葉を発することもできません。
父は地元の民生委員をしている経験から、似た顔の人がいると察してとあるお宅へ電話を掛けました。
予想は見事に的中しました。
そのお宅の親戚の叔母さんだったそうで家族総出で探していたそうです。
2週間後に介護施設へ入所することが決まっており、
認知症の症状があるとのこと。
年齢は80代。
自宅から私の家まで約2kmを歩いてきたことになる。
実際、2km程度であれば散歩する人も増えてきたので、そのまま気付かなければ誰も気に留めないかもしれない。
聞くところによると、以前にも行方不明となった経緯があり、
その際は防災ヘリや警察犬も出動して大変な騒ぎだったそうだ。
だが見つかって良かった。無事で何より。
実は私の祖母も介護施設に入所する前は徘徊癖が強かった。
母は大変苦労したと話では聞いている。
これからこのような徘徊をする老人が増えると思うと人ごとではない。
大切なのは散歩か徘徊なのか見極めることだ。
これは非常に難しいことだが、挨拶をしたりするなど軽くコミュニケーションを取ることが重要だと考える。