ああ、もう、思い出したらお腹が鳴って仕方がない。
そう、キャンプで食べるカレーの話です。
世の中には「キャンプのカレーは格別だ」なんて、まるでどこかの教科書に書いてあるような綺麗事を言う人がいますけれど、あれ、本当はもっとこう、本能に訴えかけるような、獣じみた理由があるんですよ。
別にね、私が料理の鉄人だから美味しく作れるわけじゃないんです。むしろ逆。家で作るカレーなんて、ルーの箱の裏に書いてある通りに作っても、なんだか味が決まらなくて、「あー、また今日も失敗したな」って、しょんぼりしながら食べるのが常なくらいで。
それがどうして、キャンプ場という舞台に立った途端、魔法にかかったように美味しくなるのか。
一つには、あの環境のせいですよね。
だって、考えてもみてください。家では換気扇が勝手に吸い取ってくれる煙も、キャンプじゃ直撃ですよ。テントを設営して、汗をかいて、ちょっと喉が渇いたな、ビールでも飲もうかな、なんてプシュッと開けた瞬間に、風がふわっと薪の煙とカレーの匂いを運んでくる。もう、その匂いだけで白飯三杯いけるんじゃないかっていう。
それに、調理器具もそうです。家ならピカピカの圧力鍋とか使うんでしょうけれど、キャンプじゃ煤(すす)だらけのダッチオーブンとか、ちょっと焦げ付いたアルミの鍋ですよ。それを焚き火の炎で、あっちだこっちだって、まるで暴れ馬を乗りこなすみたいに火加減を調整しながら煮込む。
そうそう、余談ですが、実は私、最初キャンプのカレーを舐めていたんです。
「どうせレトルトのカレーを温めるだけでしょ?」って。でも、違った。玉ねぎをじっくり炒める、あの時間からドラマは始まっているんです。家で玉ねぎを炒める時は、「早くあめ色にならないかなー、面倒くさいなー」って、スマホで動画を見ながら上の空でやってるのに、キャンプで焚き火の煙に燻されながら炒める玉ねぎは、なぜか愛おしい。自分の汗が隠し味になってるんじゃないかっていうくらいの愛着が湧いてくるから不思議ですよね。
そして、いざ実食。
みんなで丸太の椅子に座って、紙皿に盛られたカレーをスプーンですくう。口に入れた瞬間、まず感じるのは熱さ。ハフハフ言いながら、冷たい夜風に吹かれて食べる。その温度差が、またいいんでしょうね。
スパイスの香りも、家で食べるのとは全然違う。焚き火の煙の匂い、土の匂い、そして夜の静寂。いろんな匂いが混ざり合って、鼻腔(びくう)をくすぐる。まるでスパイスが、五感を通り越して、直接脳に「美味いぞ!」って信号を送ってくるような感覚。
そう、暗闇でスマホを探すような、そんな頼りない光の中で食べるからこそ、余計に味覚が研ぎ澄まされるのかもしれません。
「美味しいね」って顔を見合わせる相手がいるのも大きいですよね。家で一人、テレビを見ながら食べるカレーも悪くはないけれど、キャンプのカレーは、共有する体験そのものが調味料になっている。
残ったカレールーに食パンを浸して、きれいに平らげる。最後の一滴まで残したくない、そんな執念すら感じる完食劇。
食べ終わった後、焚き火の残り火を眺めながら、熱いコーヒーをすする。お腹はいっぱいで、体は煙臭くて、でも心は不思議なくらい満たされている。
キャンプのカレーが美味しい理由? そんなの、理屈じゃないんです。
あの時間、あの場所、あの空気感、その全てが混ざり合った、唯一無二の体験だからこそ、忘れられない味になる。
あー、また行きたくなってきた。今度はどんなカレーを作ろうかな。ニンニクをたっぷり入れて、ちょっとワイルドな味にするのもいいかも。ですよね?
